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春一番なスーツ!|銀座店

2021-02-06|

立春も迎え服春(私の造語)到来です!そんな中、昨年暮れに注文いただいていたお客様のヴェステッドスーツが仕上がってきたので本人様の承諾の上にお品物とお承りの内容の一部を紹介させていただきます。

服地は凄く普遍的な明るめのグレイシャークスキン。「いろんな服地でスーツを今まで仕立てきたけど、やはりここに行き着くね。スーツを仕立てるのは置き場所や袖を通す機会がが少なくなったから、そろそろ作るのを抑えておかないと(笑)。だから今回は上等なモノをおねがいしようかな…」脇に座っていらっしゃる奥様の方を向かれ、その苦笑いが妙に気になった。

そんなお客様の服地選びはいつも服地ばかりみている私にも腹に落ちるものがある。現状よっぽどの自然環境空間でなければ、空調設備が行き届き夏でも冬でも快適に過ごせる。冬になればコートも纏うし、夏になればクールビス。真冬物、真夏物が不要な時代です。効率的な服地を選び、それを装えば便利で経済的でもあることは間違いありません。しかし、「効率」と「普遍」は哲学が全く違うと思いますし、公約数的な無難さを求める服地選びではお客様にとっての良いオーダースーツにはならないと思います。そんな講釈を日々垂れている私の前で凛としてシャークスキンを選ばれたお客様には尊敬の念を抱きます。私もシャークスキンは好きな服地の一つです。ロジカルな理由などこの場で申し上げることなどできません(笑)

今回のお仕立ては、基本はクラシコイタリアを踏襲していますが、スーツジャケットの仕立ては京都ビスポークの基本である総毛芯仕立ての中でも最上位の職人によるものを選ばれました。お客様の多くはベーシックビスポークラインでご注文されることが多いですが、ハイクラスの受注は久しぶりなので少々慎重にフィッティング致しました。このクラスの仕立は毛芯の中でもハリコシの強い本バス芯をハザシで据えています。ベーシックビスポークラインに比べると手作業も多く入っており肩から胸にかけての立体感は体に沿うように描かれます。少し撫で肩傾向のお客様ではありますが、その体型を敢えてオミットするのではなく、綺麗に見せるような体型補正を加えています。よってトルソー(正体型)に着用したこの写真では下胴周りが開いているように見えます。これは実際に着用されれば奇麗に収まっています。

パンタローネ(ナポリっぽい仕立てなのでこう呼びます。ですとジャケットはジャッコーネでした(笑))はある意味、楽ちんなベルトレス仕様と言われていますが、何となくクラシックさが醸し出てカッコいいですね。それはストラップの位置や形状や帯幅などが微妙にバランスされるところに理由がありそうです。お客様は前面の2インタックに合わせて股上は深い設定を要望され、それ以外は楽しく適当に注文されている感じだったのですが、たぶん事前に相当バランスを考えられて来店されていたのはお話させてもらって痛切に感じられました。

総じていえば服地は普遍中の普遍素材だが、服の仕立ては最上級、シルエットのディメンションには本人様の深い思慮を注入し、裏地や釦等のディテールは上質なものをシンプルに添える。久しぶりに出会うことができた本物中の本物の仕立て服。この仕上りを見た時、春一番が吹くのを感じました。