ロック界のジェントルマン逝く!|銀座店
ロックレジェンドの一人、ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツが天に召されました。我々以上の世代や音楽好きの方々にとっては大きな悲しみです。私にどちら派?と問われればビートルズ寄りな方なのでストーンズのレコードはあまりライブラリーには多くないが、毎回、今度日本でツアーがあるのならば死ぬまでには一度は観ておかねばならないバンドのひとつであり、その目的は達せずにいたところの訃報だった。
しかしながらそんなストーンズの中でもとりわけチャーリー・ワッツだけは人として気になる存在だった。メンバーの中ではいつも静かで物憂げで一人だけスーツ姿が多いジェントルマン。そんな感じでいながらバンドの支柱的な存在で怒らせたら怖いというようなエピソードも多くある。私はそんな彼の雰囲気や性格・行動に憧れていた。
以下は2012年にアメリカ版GQに掲載された彼のファッションについてのインタヴュー記事です。私が従事している仕事にも関連するような内容が好きで良く読み返していたものなので、故人の追悼も兼ねて紹介したいと思います。
そこにはチャーリー・ワッツのファッションやビスポークスーツに対して想いや何故一人だけスーツ姿なのか、そのポリシーなどが述べられています。
チャーリー・ワッツに学ぶ英国ダンディズム
私にとって洋服への興味はジャズ音楽というのが大きな要因だったが、元々は父親から受け継いだものだ。父は特に大きなワードローブを持っていたわけではないが、彼は私をよくビスポークテーラーへ連れて行ってくれた。ロンドンのイーストエンドの優秀なユダヤ人の職人が洋服を仕立ててくれていたのだ。
その後、私はハリウッド・スターにも興味を持ち始めた。特にビリー・エクスタインなどのポップ歌手たちが好きで、特徴のあるカラーのシャツを着ていて見栄えのいい男だった。
また、その当時(1950~60年代)のジャズ・ミュージシャンらは、とてもハンサムであったと同時に奏でる音楽やファッションセンスもよかった。デューク・エリントン、レスター・ヤング、チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス達だ。マイルスが『マイルストーン』のアルバム・ジャケットで緑のシャツを着ているのを見て、周りの皆が緑のシャツを欲しがったものだ。
デクスター・ゴードンも当時を代表するミュージシャンで、アルバム『Our Man In Paris』のジャケットではシャツのカラーにピンをしている。これが好きで、今私はこのピンを何百本もコレクションしているよ。
これらのミュージシャンたちの素晴らしいところは、実際に自分の意志で服を着こなしている、ということだ。仕方なく服を着て、オフィスに行き、帰ってくるだけではない。自分が着たい服を身に着け一日を過ごすのだ。またそのスーツで演奏もする。もっともスーツ姿でどうやって演奏したのか私にはよくわからない。そういいながら基本的には私はステージではスーツを着ない。半袖のシャツかTシャツを着ている。勿論、若かったころはジャケットを着て演奏していたこともあったが。
ロンドンのビスポークテーラーでは、意外にも客のほうからデザインについて口出しすることはないのが普通だ。現在ロンドンに行きつけの仕立て職人達がいるが、私がダブルのスーツをノッチド・ラペルで仕立てるように依頼しても彼らは要望に応じてくれない。そいう訳で私のダブルブレステッドスーツにはすべてピークド・ラペルだ。職人たちは毅然として応じないのは、なぜだろう?やってくれてもいいんじゃないか?とも思った。しかし、街中でノッチド・ラペルのダブル・スーツを他人が着ているのをたまに見たりすると、やっぱり可笑しく見える。その時に、職人たちが継承する何百年も続いたスーツの仕立ての法則や伝統を重んじなければならないと気付いた。
バンドの他のメンバーと比べて私は簡単そうにスーツを着こなしていると言われるし、クラシックで伝統的なスタイルの服を着ることが大好きだ。そのことでバンドのフォトセッションの場に居づらく感じることもあり、また実際そういう場へ行くのが苦手である。また、スタイリストたちのやり方が好きではないのだ。もし貴方がフレッド・アステアであったらスーツで一日中過ごしているはずだ。しかし、今のスタイリスト達のやり方は、ただ単にその時だけ本人の意志も反映せず強制的にイメージされた衣裳を身につけさせるだけだ。私はそういう衣裳は着たくないので、どうしても場違いになってしまう。当然ながらバンドメンバー自体が私にそんな思いをさせた事はない。私のファッション・スタイルポリシーのことを言っているのだ。
出来上がった写真を見てみると、そこには革靴とビスポークスーツを身に着けた私と、スニーカーを履いてカジュアルなジャケットを纏ったほかのメンバーが写っている。スニーカーは格好良く見えるかもしれないが私の好みではない。
私はファッションが好きだ。なぜならばファッションは自分に何が似合うかを解明するために時間をかけて追及し、工夫してみることができるからだ。ファッションに興味を持ち始めてから(サビルローの)行ける店のほとんどに行ってみた。そして自分に合うか試してみたが、まだ私は若すぎたためどれも合うものはなかった。だから、ただ服を見て似合うかどうか見てみるだけだったが、大人になってから自分の好みがはっきりしてきたのだ。
プラダのレインコートをいくつか持っているがちょっと派手すぎるかもしれない。ラペルが2つ付いたジャケットなんかもある。昔のラルフ・ローレンもいくつか素敵なのがある。彼のデザインするものは好きなスタイルだ。つまり、古き良き英国風や、白人アングロサクソン・プロテスタントのボストン・スタイルだ。私のような、一定の年齢に達した白髪の白人には特に似合うと思う。ラルフ・ローレン(既製品)の困ったところは、服の丈が長いことだ。小柄の男性にはラルフの作るものは長すぎる。もちろん、今の年齢になる前にも英国風の服を着ていた。若いころもダブルのスーツを着ていたのだ。私は自分がレスター・ヤングか何かだと思い込んでいたからね。私はいつも夢の世界に住んでいた。今でもそうだよ。
私は今でもニューヨークのアポロ・シアターやシカゴのどこかにあるクラブで演奏している自分を想像している。それが私の好きなことだからだ。私はジャズに関するコレクションをしている。チック・ウェブが1930年にサヴォイ・ボールルームでやったライブのフライヤーを手に入れた。こういったものを山ほど持っている。
私はジャズを単なる音楽としてだけではなく、スタイルや生き様として愛したのだ。昔はジャズドラマーの演奏をよく見に行ったが、私が最初にほれ込んだのは輝かしい照明の中のドラムだった。ジャズが若い人たちにとって格好よくファッショナブルだった時代に私たちは生まれたのだった。
どんなファッションにも居場所がある。正直言って、うまく着こなそうと思ったら、人一倍時間がかかるものだ。私の妻は「ほかにやることがあるでしょ?」というだろうがね(笑)みんなは時間をかけたり悩んだりしない。でも私はそういう事をするのが好きなのだ。私にとって、失われた世界を楽しむような感じだ。
とは言いつつも、素晴らしいオーバーコートに身を包んで歩いている熟年男性を見つけたり、スタイリッシュな身なりをした若者を見かけることがあるが、私の年齢になったら、若者のカッコいい洋服は似合わないということに気づくことがコツだ。
ロンドンの自宅には約200着のスーツがある。デヴォンにもいくつかある。そのうちのいくつかはとても古くなってしまった。1960年代にはマディソン・アヴェニューにあるお店へ行くことがあり、そこで作られているものを山ほど買ったが、それらはだんだん時代遅れになってしまった。でも持っているもののほとんどは捨てずに今でも着ている。中には30年前のもある。
体重は計ったことがない。でももしトラウザースが履けなかったら、履けるようになるまで何も食べないね(笑)体にはよくないけど。
キースはよく私の髪の毛を切ってくれた。私たちは二人とも新しい靴と散髪屋が嫌いだったんだ。キースは自分で自分の髪の毛を切っていたよ。本気でやっていたね。
靴は何足持っているかわからないが、どの型のも持っている。色違いでなければ同じ靴を二つ買うことはない。ロンドンのロイヤル・アーケードにあるジョージ・クレヴァリーで靴を作ってもらっている。彼はとても有名な靴職人で、もう90歳に近い。
映画スターで素晴らしいファッションセンスを持っているひとを教えてあげよう。テレンス・スタンプだ。テレンスは素晴らしい服を持っている。
私はクレヴァリーの店でよくテレンスと会う。同じ考えの人が集まるんだよ(笑)。彼は私よりもはるかに多くの靴を持っていて彼のほうが私より先に行っている。
今すぐちょっと思い浮かばないが、若いミュージシャンや俳優でもファッション・センスのいい人たちはいる。若い人たちとはよく顔を合わせるし、着ているシャツを見て「おお、それいいね」などと言うときもある。しかし大事なのは洋服をどのように着ているか、ということだ。つまり自分自身の意志で服を着こなしていなければいけない。また、新しいのを着ているのが良いってもんじゃないし、古着を着ていればいいというものでもない。だから自分では最初からのヴィンテージ物の服は買わない。自分で意志で着て、着こなして、着古していることが重要なんだ。
2012年 アメリカ版GQより抜粋
※FOX BROTHERS FLANNEL (“GLEN-CHECK”)
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