ミラノ在住の日本人テーラー 井上 勇樹さん ②|京都本店
次に重要個所である衿部や肩部のプレスでのくせ取りなどカラチェニ仕込みの方法を教えていただきました。
生地の下から見えている半円状の木は、普通のアイロン掛けで使ういわゆる「馬」です。
この半円状の馬を使って、大切な衿部や肩ラインの整形を行っていきます。
こちらは衿部分の麻の芯地。
かなりのハードタイプですが、井上さん曰く「服は着続けると必ず衿部分は伸びてくるもの。硬めの芯を使って芯地に柔軟性も持たせる為に縫製の段階からある程度、アイロンでくせ取りをして芯地を伸ばして整形します」とのことです。
トルソーに飾ってある中縫い段階の服を着させていただきました。
衿のロール感が言葉も出ないほど美しいです。これぞ人にしかできない「本物の手仕事」です。ウエストもシェイプされフロントカットもカーブラインが深めにとってあり、とても軽やかです。 写真からは構築的な形に見えますが、肩のラインはイタリアスーツならではの柔らかさ。
※衿部分に線のようなステッチが入っているのが「ハ刺し」です。衿部の芯地を生地に添わし、糸をかける場所とかけ方の強弱で衿のロール感とボリュームを出します。
袖は美しく腕に沿って下に落ちてます。
私は痩せ型で猫背が強く肩胛骨が外に張り出している為、補正なしの服では多少肩胛骨の張りと背中のシワは出ます。このジャケットは生地が柔らかい為、肩胛骨に引っ張られた生地の影が出ていますが、窮屈感は一切なく背中と肩周りは細身ながらもゆとりをしっかりともたせているので着心地は抜群に良かったです。 腕ラインも細すぎず太すぎずの絶妙なサイズ感で、腕が抜けやすく(前に出しやすく)上げやすい。
ずらりと並ぶ仮縫いと中縫いの服。 この服の量から井上さんの人気が伺えます。
肩ラインのハンドステッチが見えますでしょうか。 これぞ「手縫い」です。
肩部を手縫いで仕上げるのは、一針一針糸のかけるテンションを変えて縫えるので糸に弾力が出て腕周りが動かしやすくなります。
井上さんに伺いましたところ、イタリアの仕立屋でも全ての人が肩回りを手縫いしているわけではないようです。職人一人一人が服に対する強い思いや拘り、構築された理論を持っています。長年の仕事の中での経験を活かし動きやすさを重視する人は手縫い、しっか
りとした強度とフォルム・縫製の美しさを重視する人はミシンを使ってとなるようです。
職人によってミシンを使う箇所が違えば、ミシンを使う回数も使い方も全く違うわけです。正に職人が持つ一人一人の服に対する思いや理論です。
本場のテーラーはスーツの内側にどんなネームを付けられるのかなと興味を持っていましたが、ご無理を言って見せていただきました。名前をマジックで書く事や、ネームデザインがシンプルがとてもかっこいいです。
気がつけば2時間半・・・。
井上さんに質問ばかり実演していただいてばかりで。ミラノの現役テーラーに色々と教えていただき、大変幸せな時間を過ごさせていただきました。 私たちの質問攻めにもムッとせずに(笑)全て答えていただき、関西ご出身の方なのでお話も面白く大変気さくな方で私たちを温かく迎えてくださいました。
最後に記念写真。
井上さん
大勢で長い時間お伺いしましてすいませんでした。 とても良い勉強になりました。
またミラノを訪れる事がございましたら伺わせていただきますので、よろしくお願い致します。 また日本でお会いしましょう!